誰もが知っているSWOT分析の本当の使い方

ブログを書こうと考え、初めてのネタとして良く使われているし知られている「SWOT分析」と言うのを考えてみました。
 
長いことコンサル屋をやっていると「常識と言われていることを一旦疑ってみる」という癖がついてしまって、少し斜めから見たようなネタになってしまいましたが、こんなネタで良ければお付き合いください。内容は、アットランダムになるとは思いますが。
 
ここ3年くらいに出会った本で、結構自身の考え方や思考パターンに影響があった本が2冊あります。
・一つは、もうフリーク状態の楠木先生の「ストーリーとしての競争戦略」。
・もう一つはドクター苫米地先生の「あなたは常識に洗脳されている」
ご興味のある方は、どうぞ。
 
* * *
 

■あるセミナーの失敗/昔話

「自社の強み」を明らかにして、「追い風に乗る」ことが大切。。。
したり顔で、古ーい理屈のSWOT分析やらを説くという話を良く聞きます。
そして、縦横の升目を書いて、それぞれに当てはまる現象やら要素を書き込んでください。。。
という風に進められる。
 
実は、かく言う私も17年くらい前、中小企業診断士として独立したての若葉マークの頃に、セミナーやら講演会でさも「良くわかってるやろう」てなノリで話をしてたことがあります。
今思うを赤面してしまうのですが。。。
まあ、診断士の勉強の中で出てきたフレームワークを鵜呑みにして、なるほど・・・と理解したつもりでいたのです。
 
当時あるシミュレーション型の連続セミナーを企画開催していた時、参加者にこのSWOT分析やらをやってもらったのです。ところが、多くの人がほとんど書き込めないのです。
で、一般的な環境要素をヒントのつもりでいくつか例示して見せたのですが。。。
その結果、みなさんがほぼ似たり寄ったりの内容になって、、、
結論は、参加者のほとんどが「類似」の戦略あるいは自社の今後の方向性になって行ったのです。
 
これって、どう思います。
同じセミナーの中で、競合他社との違いを出す必要があるという意味で「差別化戦略」を説明していたのに、結局SWOT分析やらでオーソドックスに「自社の強み」を「事業機会に向けて」活かすという手法をとると、「差別化ができない」という結果になってしまったのです。
 
セミナーみたいなシミュレーションの場だからまあ許される範囲だったかもしれませんが、もしこれで実践に落とし込まれたら、仮に類似業界内の戦いだったら、、、
「差別化されない[同質化競争]」になりますから、やることはただ一つ「価格競争」という話になります。要するに、みんなが儲からない消耗戦をしましょう、っていうような結末になる可能性が高いということです。
 
敬愛する楠木先生の「ストーリーとしての競争戦略」で、戦略とは「違いを作ってつなげる」ことって解説していただいていますが、この例は「違いを作らない」手法になってしまったということになってしまいます。
 

■SWOT分析のフレームワーク

SWOT分析そのものは、もう何十年も前から利用されているツールで決して否定するものではありません。1960年代から70年代にスタンフォード大学で研究プロジェクトを導いた、アルバート・ハンフリーにより構築されたものだそうです。
私は、SWOT分析というこのフレームワークを、これも古い本ですがジョージ・S・Dが書いた「戦略事業計画」で説明されたことで知りました。
この本自体はもう廃番になっているため原著には当れてないのですが、そこで説明されている内容は、いきなりSWOTの升目に埋めろなんて言ってなくて、一定の論理フレームがあります。
SWOT分析アプローチという論理で、戦略の方向性を見出すための思考手順のようなものです。
―――――――
まず、
・環境分析:政治や経済、テクノロジーなどのマクロ要因と市場産業の要因について分析
・競争分析:たとえばポーターの5フォースなどのフレームを使って競争状態を分析
・資源と能力分析:自社の能力を棚卸
の3つの視点で現状を客観的に見てみます。
その上で、
・環境仮説:経営環境はこういう風に変化してゆくのではないかという仮説
・競争仮説:このように競争の状況は変わるのではないかという仮説
・資源仮説:自社の保有するスキルがどのように市場に貢献するかという仮説
という3つの視点で仮説だてます。
で、これらを俯瞰して、思考して
SWOTという枠組みの中に落とし込んで考えます。
そして、
考えられる戦略オプションをいくつか立てて、方向性を決める。
―――――――
というものです。
 
 

■SWOT分析を使うとしたら

個人的にはあまり好きなフレームワークではありませんが、それでもこれを使おうとするならそれなりの方法があるような気がします。
SWOTが仮にできたとしたらの前提ですが、4つの戦略オプションができます。
(ある書籍では、この4つのオプションに対する打ち手を全部出して、実践するというようなものもありますが、それでは全然とんがらないし、そもそも経営資源の少ない中小企業では絶対できないと思います。)
 
①自社の強み×事業機会
②自社の強み×事業に与える脅威
③自社の弱み×事業機会
④自社の弱み×事業に与える脅威
 
このそれぞれに対する戦略の方向性です。
 
先に私の古い失敗例で示しましたが、ほとんどは①の領域でやろうとします。その結果、泥沼になるという結末を迎えます。
一方、戦略が「他社との違いを作ること」という定石から考えると、④の領域で、自社の弱みを時間をかけて強みに転化し、競合他社がやりたがらない事業に与える脅威要素の領域で独り勝ちする、という話になります。
つまり、理想的には④の領域で極めるというのが理想的な方向性になるのが分かります。
 
ただ、中小企業で体力がないというのが現実ですから、いきなりここは無理です。
で、
収益を上げながら④に持ってゆくことを目指さなければいけませんから、
 
第一ステージ:とりあえず①の領域で、利益率は低いけど生きて行ける程度の業績を上げることを目指す
第二ステージ:自社の強みを②の領域で、自社の強みを強化あるいは修正を加えて+αを目指す。
第三ステージ:上記に取り組んでいる間に、市場での要求はあるがどこも実現していない弱みを強化する取り組みを進める。そして④の脅威領域で独自の市場を作る
第四ステージ:事業機会のある領域を捨てて、特化する。
 
というような流れが一例として考えられるかもしれません。
 
まあこれは、思考の遊びみたいなところですから、正しいとは思いませんが。
もちろん、自社の強みが独自性が高く競合他社では持っていないというのであれば、①の領域でも良いかもしれません。また、同様な強みを持つところが多くて価格競争になっても、絶対に勝てるくらい超ローコスト戦略が取れるというのであれば、それはそれでかなり強力な戦略でしょう。
 
「自社の弱み」を強化して「事業に与える脅威」の領域で、時間がかかっても成立するように努力することをすれば、競合他社からは「あいつの会社、アホなことやってるなあ」って、相手にもされません。ですから、ゆっくりと丁寧に市場の隠れたニーズを探索して、満たしてゆくことができますし、ある意味気楽でしょう。
 
ベタな現場の話に置き換えると、「相見積もり」などは、競争相手がでませんので起こらないということを意味するかもしれません。お客様の方も、見比べる相手がいませんから提示する商品やサービスそのものを客観的に評価せざるを得ないということになります。
で、気に行ってもらったら、他に代わりがありませんから、使い続けるしかありません。
こんな流れになったらうれしいですよね、経営者にとって。

* * *
 
もう、現実の支援の現場で使うことはあまりなくなったSWOT分析ですけど、このようなオーソドックスな手法についても、その論理を丸ごと理解しないと間違った使われ方になりかねないと思います。
それと、「分析」っていうのがよくつかわれます。分析があったら総合があって初めて一連の作業?が終わるはずですが、分析だけで終わっているケースもよく見ます。要するに分析はしたけど、結論がないという状況です。これでは(分析だけでは)アクションは起こせません。
分析したら、「だからどうなんだ」と自分なりに結論を出すことが大切ですよね。

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